日本全国のレンタル・共用クリーンルーム施設の実態
自社でクリーンルームを保有できないスタートアップや中小企業にとって、レンタル・共用クリーンルーム施設は研究開発や試作生産の生命線となる。日本国内には公設試験研究機関、大学共用施設、民間レンタル施設の3タイプが存在し、それぞれ異なる強みを持つ。
公設試験研究機関の共用クリーンルーム
全国47都道府県に設置されている産業技術センターの多くがクリーンルーム設備を保有している。大阪産業技術研究所はクラス10000のクリーンルームを半日2,000円という低価格で提供しており、中小企業の技術開発を直接支援する姿勢が明確だ。東京都立産業技術研究センターも機器利用制度を通じてクリーンルーム関連設備を開放しているが、利用には技術相談受付フォームからの事前申込が必要となる。
大学共用施設による産学連携モデル
文部科学省のマテリアル先端リサーチインフラ事業(ARIM)により、全国の主要大学がクリーンルーム施設を企業に開放している。東北大学マイクロシステム融合研究開発センター(μSIC)は1,800m²のスーパークリーンルームを「試作コインランドリ」として運営し、150台以上のMEMS・半導体装置を時間単位で利用可能にしている。2024年度の利用時間は35,000時間を超え、産業界からの需要の高さを示している。産総研のナノプロセシング施設(NPF)は経験豊富な専門家によるプロセス設計コンサルティングを提供し、単なる設備貸しを超えた技術支援を実現している。知的財産権が原則として利用者に帰属する点も、スタートアップにとって重要だ。
民間レンタル施設の柔軟性
民間レンタル施設は短期利用や急な受注増への対応に強みを持つ。山形県米沢市の株式会社ソアーは、自社クリーンルームが立ち上がるまでの数ヶ月間だけ確保したいという企業ニーズに応えている。山形県は地震保険料率が最も低い1等地であり、水害被害額も東北第2位の低さという立地特性を活かし、災害リスクを重視する半導体・精密機器メーカーに選ばれている。三基産業株式会社は大規模なクリーンルームレンタルを提供してきたが、現在は新規受付を停止しており、民間大型レンタル市場の供給不足が顕在化している。
清浄度クラスと利用用途の関係
クリーンルームの清浄度はISO 14644-1規格で定義され、クラス1(最高清浄度)からクラス9まで存在する。半導体製造にはクラス1~5が、医薬品製造にはクラス5~7が、精密機械組立にはクラス7~8が一般的に要求される。大学共用施設は最先端研究に対応するためクラス1のスーパークリーンルームを保有する一方、公設試験場は実用レベルのクラス10000(旧規格、ISO 14644-1ではクラス7相当)を中心に整備している。利用企業は自社の製品要求仕様に応じて施設を選択する必要がある。
利用形態と料金体系の多様性
公設試験場は半日単位の時間貸しが主流で、料金は2,000円~5,000円程度と低価格だが、予約が取りにくい傾向がある。大学共用施設は装置ごとの従量課金制を採用し、技術支援込みで専門性の高い利用に対応している。民間レンタルはスペース貸しが中心で、月単位の長期契約も可能だが、料金は公設施設より高額になる。企業は利用頻度、必要期間、技術支援の必要性を総合的に判断して施設を選定すべきだ。
地域別の施設分布と産業集積
クリーンルーム共用施設は半導体・MEMS産業の集積地に集中している。東北地方は東北大学を中心としたMEMS研究開発エコシステムが形成され、関東地方は産総研つくばセンターを軸としたナノテクノロジー拠点、関西地方は大阪産業技術研究所と京都大学による材料・デバイス開発拠点として機能している。地方企業がこれらの施設にアクセスする際、遠隔地からの利用に対応した宿泊施設の有無や、オンライン技術相談の可否も重要な選択基準となる。