GDPR準拠クラウドホスティングの選定基準
EU一般データ保護規則(GDPR)に準拠したクラウドホスティング事業者を選定する際、データ処理契約(DPA)の提供、EU域内データセンターの有無、ISO 27001やEU Cloud Code of Conductなどの第三者認証取得状況が重要な判断材料となります。特に、事業者の本社所在地がEU域内か域外かによって、米国CLOUD法やFISA 702条などの第三国法の適用リスクが大きく異なります。
ハイパースケーラーとEU専業プロバイダーの違い
AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platform、Oracle Cloudといったハイパースケーラーは、いずれもGDPR準拠を表明し、EU域内に複数のデータセンターを運用しています。これらの事業者は70以上のグローバル認証基準をクリアし、ISO 27017(クラウドセキュリティ)、ISO 27018(クラウドプライバシー)、ISO 27701(プライバシー情報管理)、SOC 1/2/3、PCI DSS Level 1などの認証を保有しています。一方で、米国本社のため米国法の域外適用リスクがあり、厳格なデータ主権を求める組織には不向きな場合があります。
これに対し、OVHcloud、Hetzner、ScalewayなどのEU本社クラウド事業者は、EU法のみに準拠し、第三国法の影響を受けません。OVHcloudはCloud Infrastructure Services Providers in Europe(CISPE)の創設メンバーであり、HetznerはISO 27001認証を取得、Scalewayは2025年1月にSecNumCloud認定プロセスに入るなど、欧州データ主権を重視する企業に支持されています。
GDPR認証フレームワークとその実態
| 認証・基準 | 概要 | 主要取得事業者例 |
|---|---|---|
| EU Cloud Code of Conduct | GDPR第28条要件を満たすクラウドプロバイダー向けの汎欧州行動規範。欧州データ保護会議(EDPB)承認済み | AWS、Microsoft Azure、Oracle Cloud |
| ISO 27001 | 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格 | OVHcloud、Hetzner、IBM Cloud |
| ISO 27701 (PIMS) | プライバシー情報管理システムの国際規格。GDPR準拠の証左となる唯一のISO認証 | Microsoft Azure、Google Cloud |
| CISPE Data Protection Code | EU域内クラウドインフラ事業者向けデータ保護規範 | OVHcloud、AWS(2017年版準拠) |
重要な点として、GDPR自体には単一の「GDPR認証」は存在しません。ISO 27701(PIMS)を除き、GDPR準拠は継続的なプロセスであり、データ管理者(顧客)とデータ処理者(クラウド事業者)の共同責任モデルに基づきます。事業者選定時には、DPAの内容確認、標準契約条項(SCC)または拘束的企業準則(BCR)の有無確認、ISO/SOC監査証明書の精査が不可欠です。
データ所在地と法的管轄権の分離
GDPRはEU域内へのデータ保管を義務付けていませんが、データが物理的にEU内にあっても、事業者が米国など第三国の法的管轄下にある場合、制限付き移転とみなされます。例えば、米国本社企業がドイツにデータセンターを運用していても、CLOUD法やFISA 702条の対象となり得ます。このため、医療、銀行、法務、公共サービスなどの規制業界では、OVHcloud(仏)、Hetzner(独)、Scaleway(仏)といったEU本社事業者が選好される傾向にあります。
2024年には欧州データ保護当局が12億ユーロの制裁金を科し、企業はペナルティ回避から積極的プライバシープログラムへとシフトしています。グローバル企業の92%がクラウドインフラ上で規制義務を満たす自信を持つ一方、61%がGDPRコンプライアンスツールを活用し、39%は導入初期段階にあります。
市場規模と成長予測
GDPRサービス市場は2024年に30億ドル、2025年には34億ドルに達し、2033年までに168億ドルに成長すると予測されています(CAGR 20.05%)。別の調査では2030年までに59億9710万ドル(CAGR 22.45%)との見通しもあります。クラウドベースの展開が市場の過半を占め、統合柔軟性が45%高いクラウドソリューションが全体の55%を占めています。欧州は市場シェアの41%を握り、アジア太平洋地域は29%の急成長を示しています。
選定時の実務チェックリスト
- 契約面
- データ処理契約(DPA)がGDPR第28条要件を満たしているか、サブプロセッサーのリスト、侵害通知タイムライン(72時間以内)が明記されているかを確認
- 技術面
- 保存時暗号化・通信時暗号化の標準提供、HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)サポート、クライアント側エンドツーエンド暗号化オプションの有無
- 地理面
- EU域内データセンターの利用可能性、データレジデンシー認証(独立監査機関による地理的封じ込め検証)、EU域内での完全マルチリージョン冗長化
- 法的管轄
- 事業者本社の所在地、第三国法(CLOUD Act等)の適用可能性、EU Sovereign Cloudオプション(Oracle、Microsoft等)の提供有無
2026年のトレンド:デジタル主権と持続可能性
欧州委員会のIPCEI-CISイニシアチブは12億ユーロを最先端クラウド・エッジ技術に投資し、持続可能性とデジタル主権を強調しています。Scalewayは再生可能エネルギー駆動データセンターで透明な価格設定を実現し、OVHcloudはEU域内完全運用により域外法リスクをゼロにしています。また、Microsoft Azure EU Sovereign Cloud、Oracle EU Sovereign Cloudなど、ハイパースケーラーもEU専用レルムを提供し始めており、物理・論理的分離とEU居住者限定のアクセス管理を実現しています。