リチウムイオン電池リサイクル市場の構造転換
2026年4月、改正資源有効利用促進法の施行により、モバイルバッテリー・携帯電話を含む3品目が「指定再資源化製品」に追加され、メーカー・輸入事業者に回収・リサイクル義務が法制化されます。この制度変更は、従来の自主回収中心だった日本のLiBリサイクル市場を、欧州電池規則に準じた強制EPR(拡大生産者責任)体制へと移行させる画期的な転換点です。
市場規模は2023年時点で約650億円とされますが、日本総研の試算では2030年に1,200億円、2050年には2兆円超へと拡大する見通しです。EVの普及加速と電池寿命到来が重なる2030年代には、年間数万トン規模の使用済み車載用電池が発生すると予測され、委託先選定は環境対応部門にとって喫緊の経営課題となっています。
技術的差別化ポイント
国内リサイクル事業者は大きく3つの技術アプローチに分かれます。湿式製錬では、JX金属や住友金属鉱山が硫酸浸出・溶媒抽出によりバッテリーグレードのニッケル・コバルト塩を回収し、関東電化工業との協業で世界初の水平リサイクル技術を確立しています。乾式・湿式ハイブリッドでは、三菱マテリアルが銅製錬インフラを活用し、2025年稼働予定の福島いわき市パイロットプラントで電池グレード炭酸リチウムの製造を目指します。
最もユニークなのがセメントプロセス活用型で、太平洋セメントと松田産業が共同開発した100%リサイクルシステムは、焙焼処理で発生するフッ化水素ガスをセメント製造工程で無害化し、残渣までセメント原燃料化することで二次廃棄物ゼロを実現します。DOWAエコシステムは東日本(秋田)・西日本(岡山)の2拠点で700~900℃熱処理後にブラックマスを回収する独自プロセスを展開し、自動車再資源化協力機構(JARP)のLiB共同回収システムに当初から参画しています。
リユース・リサイクルの境界
日産と住友商事の合弁会社フォーアールエナジーは、リサイクルではなくリユースに特化した異色のモデルを展開します。EV車載電池を48モジュールに分解して個別分析し、残存容量60~80%のものは蓄電システムとして再製品化—セブン-イレブン店舗やJR東日本踏切での稼働実績があり、福島県浪江町の工場では回収電池を電力系統向け需給調整に活用する「EVバッテリー・ステーション浪江」を運営しています。テスラやBYDが採用する即座の分解・鉱物回収とは対照的に、バッテリーの使用価値を最大化する循環型モデルです。
グローバルサプライチェーンとの競合
日本勢の最大の課題は原料確保です。中国・韓国がブラックマス製造から製錬まで垂直統合で事業化を進める中、国内ではエンビプロ・ホールディングス(VOLTA)が2030年までに14,000トン/年の処理能力達成を掲げ、茨城工場で5,000トン規模の増強を進めますが、住友金属鉱山が警戒するのは「廃LiBの海外流出」です。国内に残る使用済み電池が減少すれば収益化は困難となるため、2026年法施行後の回収スキーム設計が業界全体の命運を分けます。
三井物産はVOLTAおよびシンガポール企業Miracle Eternalと合弁で「J-Cycle」を設立し、茨城県ひたちなか市で2024年から稼働を開始。パナソニック エナジーは住友金属鉱山と正極材原料リサイクルで提携し、サーキュラーエコノミー構築を加速させています。NEDO(グリーンイノベーション基金)採択プロジェクトでは、JX金属・住友金属鉱山がクローズドループ実証に取り組んでおり、「電池to電池」の資源循環がいつ実用化されるかが次の焦点です。