PCT出願時の多言語翻訳という戦略的課題
特許協力条約(PCT)に基づく国際出願では、優先日から30ヶ月以内に各指定国への国内移行が必要であり、その際に各国の特許庁が要求する言語への翻訳文提出が求められます。この翻訳は単なる言語変換ではなく、クレーム文の法的解釈や技術用語の正確性が権利範囲を左右するため、特許実務の深い理解を持つ専門翻訳者による対応が不可欠です。
日本の特許翻訳市場は約2,000社が参入する超多極分散型の構造を持ち、翻訳市場全体で約3,080億円(2023年度予測)の規模があります。主要プレイヤーは、英語・中国語・韓国語を基本としつつ、欧州言語(独語・仏語等)やアジア言語まで対応範囲を広げています。
近年は大規模言語モデル(LLM)を活用したニューラル機械翻訳(NMT)が進化し、NICTの汎用・特許ユニバーサルモデルや日本特許翻訳のProTranslator Neoなど、ドメイン特化型の翻訳エンジンが実用化されています。一方で、特許明細書は権利書となり得る重要文書であり、機械翻訳後のポストエディット(MTPE)や人間翻訳者によるチェックが依然として重視されています。
選定時のポイントは、①対象技術分野での翻訳実績、②ターゲット国の特許実務への精通度、③NIPTA知的財産翻訳検定などの認定資格保有者の在籍状況、④PCT国内移行期限に対応できる納期体制、⑤翻訳メモリやMT活用による品質と効率のバランスです。グローバル展開を目指す企業にとって、多言語対応力と専門性を兼ね備えたパートナー選びが知財戦略の成否を分けます。