日本の医薬品添加剤市場とメーカーの位置づけ
日本の医薬品添加剤業界は、国内に大規模な製薬産業を持ち、高度な技術力と厳格な監督管理体制を背景に、グローバル市場でも重要な役割を果たしています。特に高齢者人口が世界一であることから、慢性疾患治療薬や生物学的製剤における添加剤需要が継続的に拡大しており、製剤設計の高度化に伴い、単なる賦形剤から機能性添加剤への進化が進んでいます。
日本薬局方(JP)に加え、米国薬局方(USP)や欧州薬局方(EP)への適合を前提とした製品開発が標準化されており、特にDMF(Drug Master File、日本では原薬等登録原簿:MF)登録を通じて、製造ノウハウを保護しながらグローバル展開を図る企業が増加しています。
主要な添加剤カテゴリーと日本メーカーの強み
- セルロース誘導体
- 信越化学工業のメトローズ(HPMC/MC)は、フィルムコーティング剤・結合剤・徐放性基剤として世界的に採用されています。日本曹達のNISSO HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)は国内シェアNo.1で、水・アルコール両溶性という特性から錠剤結合剤として高く評価されています。
- 結晶セルロース(MCC)
- 旭化成のセオラス(Ceolus)ブランドは、圧縮成形性・崩壊性・流動性のバランスに優れ、直打錠や口腔内崩壊錠(OD錠)に広く使用されています。特にCeolus KGは高圧縮性、Celphereは徐放性製剤用スフェアとして差別化されています。
- 直打用賦形剤・球形核粒子
- フロイント産業のグラニュトール(直打用賦形剤)やノンパレル(球形核粒子)は、製剤工程の効率化とコーティング製剤の品質向上に貢献しています。2024年にはノンパレル-MMを開発し、微粒子コーティング時間を従来の1/10に短縮する技術革新を実現しています。
規制対応と国際展開
日本のMF制度は、原薬・添加剤・容器包装材料・医療機器原材料・再生医療等製品原材料を対象とし、他国のDMFより適用範囲が広いのが特徴です。外国製造業者は国内管理人(ICC: In-Country Caretaker)を通じて登録する必要があり、日本語での申請が原則です。PMDAに登録されたMFのうち、約63.5%が外国製造業者によるもので、中国・インド・韓国・イタリア・スペインからの登録が多く、全7大陸からの登録実績があります。
国内メーカーは、GMP準拠の製造管理・品質管理体制を整備し、ICH(医薬品規制調和国際会議)ガイドラインやPIC/S GMPへの対応を進めています。これにより、ジェネリック医薬品の普及拡大や、バイオ医薬品・再生医療製品向けの高機能添加剤開発において、グローバル競争力を維持しています。
市場動向と投資拡大
世界の医薬品添加剤市場は、2023年の約92億米ドルから2028年には134.9億米ドルへと、年平均成長率7.93%で拡大すると予測されています。日本国内でも、信越化学・旭化成・日本曹達・フロイント産業などの主要メーカーが生産能力増強を進めており、特に日本曹達は2026年度完成を目指して約100億円を投じてNISSO HPCの生産能力を1.5倍に拡大中です。また、旭化成は2023年に岡山県水島工場でCeolusの第2プラントを完成させ、グローバル供給体制を強化しています。
今後は、精密医療(Precision Medicine)の進展に伴う個別化製剤、経口徐放製剤・経皮吸収製剤などのドラッグデリバリーシステム(DDS)の高度化、そして錠剤だけでなく注射剤・吸入剤・バイオ医薬品向け添加剤の需要拡大が見込まれています。