製造業向け予知保全ソリューションとは
予知保全(Predictive Maintenance: PdM)は、生産設備に設置したIoTセンサーから稼働データを常時収集・分析し、設備の異常や故障に至る予兆を検知することで、最適なタイミングでメンテナンスを実施する保全方式です。従来の定期保全では、まだ使える部品も時間基準で交換していましたが、予知保全では設備の状態を監視して故障の兆候が出たときのみメンテナンスを行うため、無駄な部品交換を抑え、保守コストを大幅に削減できます。
製造業では、設備の予定外停止が巨大な損失につながります。IoT Analyticsの推計では、2018年の世界の予知保全市場は33億ドル(約3,600億円)規模で、2024年までの年平均成長率は39%を超え、235億ドル(約2兆5,800億円)規模に達する見込みです。少子高齢化による人材不足、熟練保全員の引退、コスト削減の要請などから、製造業へのデジタル・トランスフォーメーション(DX)活用が盛んに行われており、異常を早期に検知する予知保全の導入が急速に進んでいます。
予知保全の仕組み
予知保全システムは、製造ラインの機械や設備に取り付けられたIoTセンサーからリアルタイムで収集されるデータ(電流値、温度、振動数、稼働音など)をAIが分析し、故障の予兆(異常)を高精度で検知します。振動分析では、正常時の振動パターンを学習したAIがベアリングの摩耗やシャフトの芯ズレなどによって生じる特有の振動パターンを検知し、故障が表面化する数週間から数ヶ月前にその予兆を捉えることも可能です。温度分析ではモーターや配電盤の温度を監視し過負荷や接触不良を未然に防ぎ、音響分析では稼働音から部品の緩みや潤滑油の劣化を早期発見します。
主要ソリューションプロバイダーの特徴
日本国内には、大手電機メーカー、制御機器メーカー、AIベンチャーなど、多様な予知保全ソリューションプロバイダーが存在します。日立製作所のLumadaは、ITとOT(制御・運用技術)を統合したIoTプラットフォームで、鉄道・電力・産業など幅広い分野で培ってきた制御技術とAI・ビッグデータ分析を結集し、昇降機保全や鉄道設備の予知保全に活用されています。オムロンは、AIコントローラー用の「AI予知保全ライブラリ」により、熟練技能者が行っていた設備の突発停止時の復旧対応を最適なタイミングの保全に変え、「止まらない設備」の実現を目指しています。
ブレインズテクノロジーは、2014年に市場に先駆けてリリースした異常検知ソリューション「Impulse」で、30,000を超えるAIモデルが実際の現場で稼働しており、デンソー、大阪ガス、アイシンなどの大手企業に導入されています。富士電機の現場型診断装置SignAiEdgeは、PLCや振動データを分析することで異常検知・不良原因解析・故障解析を可能にし、AI・機械学習の利用のためのインフラ構築が不要で低コストで導入できるのが特長です。パナソニックは、業界初の「高調波センサとAIの組み合わせ」によるAI設備診断サービスを提供しており、センサを設備本体ではなく離れた制御盤内に取り付けるため、防爆構造やクリーンルームでも導入可能です。
導入のメリットと効果
予知保全の導入により、ダウンタイムを最小限に抑えることで生産ロスを削減し、最適なタイミングでのメンテナンスにより無駄な費用を削減できます。部品交換タイミングの適正化により保守部品在庫も削減できます。AIによる24時間365日の自動監視により、熟練技術者の経験や勘でも捉えきれない微細な変化から故障の予兆を検知し、個人のスキルに頼ることなく誰もが客観的なデータに基づいて異常を察知できるため、属人化が解消されます。
実際の導入事例では、アナログ・デバイセズのスマートモーターセンサーを導入した企業で年間設備保全コストを約30%削減した試算もあります。JR西日本は約2,000台の自動改札機に故障予測AI「AI-TEMS」を導入し、故障リスクの高い機器から優先的に点検する条件基準保全(CBM)体制へ移行しました。花王は和歌山工場でAI技術を活用した運転監視の自動化・異常予兆検知を導入し、大幅な業務負荷削減に加えて生産性向上と監視業務の標準化による属人化の解消を達成しています。