人工衛星の熱真空試験とは
熱真空試験(Thermal Vacuum Test, TVAC)は、人工衛星が宇宙空間で直面する極限環境を地上で再現する最重要試験です。真空の宇宙では、太陽光が当たる箇所は+100°C以上、影の部分は-150°C以下と、250°C近い温度差が発生します。スペースチャンバーと呼ばれる大型真空容器内で、液体窒素による冷却とソーラシミュレータによる加熱を組み合わせ、衛星の熱設計妥当性と機器動作を検証します。
主要試験設備の分類
大型チャンバー(φ10m以上):JAXA筑波13mφ、NASA Glenn 100ft、NASA JSC Chamber Aなど、バス型衛星や大型観測衛星の一体試験に対応。James Webb宇宙望遠鏡やISSモジュールもこのクラスで試験されました。
中型チャンバー(φ4-10m):ESA Phenix、JAXA 8mφなど、中型衛星やサブシステム試験に最適。民間企業や研究機関が外部受託で活用するケースが多い規模です。
小型・CubeSat向け:Dynavac、Nanovac、国立天文台、九工大など、1-2m級の小型チャンバー。スタートアップや大学の超小型衛星開発に必須の設備で、レンタルサービスも登場しています。
日本国内の主要施設
JAXA筑波宇宙センターは、官民連携により株式会社エイ・イー・エスが18の環境試験設備を運営。13mφ、8mφ、6mφ、1mφの4クラスのスペースチャンバーを保有し、外部からの受託試験にも対応しています。三菱電機やNECは自社工場内に大型チャンバーを持ち、商用衛星の社内一貫試験体制を構築。九州工業大学は超小型衛星に特化し、国内外のユーザーを受け入れています。
海外の代表的施設
NASA Johnson Space Center(JSC)のChamber Aは、アポロ計画時代から稼働する歴史的施設で、直径16.8m×高さ24.4mの巨大スペースチャンバー。35K(-238°C)の極低温環境を実現し、James Webb宇宙望遠鏡の最終試験もここで実施されました。NASA Glenn Research Centerの宇宙環境複合施設(SEC)は、直径30.5m×高さ37.2mと世界最大級。ESA ESTECのPhenixチャンバーは、欧州の小中型衛星開発を支える中核施設です。
民間商用サービスの拡大
ORIX Rentecは、液体窒素不要のコンパクト熱真空チャンバーのレンタルサービスを開始。5日間から借用可能で、初期投資を抑えたい宇宙スタートアップに最適です。Dynavac、Nanovac、ACS(Angelantoni)などのメーカーは、CubeSat・SmallSat向けのターンキーシステムを提供し、大学や民間企業の自社保有を促進しています。
試験委託先選定のポイント
衛星サイズ、試験スケジュール、予算、技術サポート体制を総合評価します。大型衛星ならJAXA筑波やNASA施設、CubeSatなら九工大や国立天文台、Nanovacレンタル等が現実的。海外施設は予約待ち数ヶ月のケースもあり、早期コンタクトが成功の鍵です。